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釧路地方裁判所網走支部 昭和55年(ワ)15号 判決

主文

一  被告は原告に対し、金五九万七五二〇円及びこれに対する昭和五二年九月七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は主文第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金六四万七五二〇円及びこれに対する昭和五二年九月七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

原告は、昭和五二年九月七日午後六時一五分ころ、網走市南四条西四丁目交差点において、網走駅方面から南六条通方面に向かつて車両(網走三三〇一)を運転走行中、南四条通りを天都山方面に向かうため西三丁目方向から被告運転の普通乗用自動車が一時停止道路標識を無視して右交差点に進入してきたためこれに衝突した。

2  受傷

右事故によつて原告は、頭部挫傷、頸部挫傷等の傷害を受け、昭和五二年九月七日から同月一六日まで入院加療した。

3  被告の責任

(一) 本位的主張

被告は右普通乗用自動車を自己のため運行の用に供していたので自動車損害賠償保障法三条により後記損害を賠償する責任がある。

(二) 予備的主張

仮に(一)の主張が認められないとしても、原被告間には昭和五二年九月一七日、本件事故による原告の人身の被害については全額被告が負担(原告の昭和五六年四月二〇日付準備書面に「原告が負担」とあるのは「被告が負担」の誤記と認める。)する旨の和解が成立した。

4  損害

原告は本件事故により次の損害を受けた。

(一) 治療費 四二万五〇二〇円

(二) 入院諸雑費 五〇〇〇円(一日五〇〇円、一〇日間)

(三) 付添看護料 一万七五〇〇円(一日二五〇〇円、七日間)

(四) 慰藉料 二〇万円

合計 六四万七五二〇円

5  結論

よつて原告は被告に対し、金六四万七五二〇円及びこれに対する本件事故の日である昭和五二年九月七日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因事実1のうち、被告車が「一時停止道路標識を無視して右交差点に進入してきたため」との点を否認し、その余は認める。本件事故の加害車両は原告車である。

2  同2のうち原告が入院した事実は認めるが、その余は不知。

3  同4は不知。

4  同5は争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  昭和五二年九月七日午後六時一五分ころ、網走市南四条西四丁目交差点において、網走駅方面から南六条通方面に向かつて原告が運転していた車両(網走三三〇一)と、南四条通りを西三丁目方向から天都山方向に向かつて被告が運転していた普通乗用自動車が衝突し、そのため原告が入院した事実は当事者間に争いがなく、またその際被告が右普通乗用自動車を自己のため運行の用に供していたことは被告において明らかに争わないから自白したものとみなす。

二  右事故の態様についてみてみるのに、証人亀井六郎、同弭間四郎の各証言及び被告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第二号証、成立に争いのない甲第五号証、証人堀サヨ子の証言並びに原被告各本人尋問の結果を総合すると、被告運転の普通乗用自動車(旭五五ぬ三六五一号、マツダルーチエ)は四条通りから本件交差点をぬけて天都山方面に向かおうとし、原告運転の原動機付自転車(網走三三〇一号、五〇cc)は網走駅方向から六条通りへ向けて本件交差点にさしかかつたところ、被告車の進路には、本件交差点に進入する直前に横断歩道があり、その手前左側に一時停止の標識が設置されており、被告はこれに従い、同所で一時停止し、左折のウインカーを上げ、網走駅方向から六条通り方向への車二、三台をやりすごしてから発進し、徐行して同交差点に進入し、天都山方向へ行くには同交差点を左折して同交差点を出たすぐの所を右折して入る道を行かねばならない地形になつているところから、六条通り方向から同交差点に向かつて来る車の有無を確認するため同交差点に進入してからは左方向(六条通り方向)ばかりを見て進行し、同交差点を六条通りの方向へ出る所に設置されていた横断歩道の、道路幅のほぼ中央付近までさしかかつたところ、六条通り方向から車が一台来たので止まろうとしていたところ、原告車が被告車の右前部フエンダー付近に衝突し、原告は放り出されて、即座に停止した被告車の左前付近に落ちたこと、衝突後、被告は直ちに制動をかけ即座に停止したが、衝突してから被告車が停止するまでの間、同車は二〇から三〇センチメートル位しか進行していないこと、前記のとおり、四条通りから本件交差点を経て天都山方向へ行くには同交差点に入つてから左方向へ進行し、同交差点を出るか出ないかのうちに右折の態勢に入らなければならない地形になつているところ、右衝突時点では被告車の進行方向は既に天都山方向へ入る道に向けて右折態勢に入つていたこと、被告は、衝突まで全く原告車を見ていないこと、原告車は、本件交差点の網走駅方向手前にあるもう一つの交差点(二条通りへ通ずる道と、本件交差点を通じて六条通りへ通ずる道と分岐する交差点)で赤信号のため停止し、青信号に変わつてから同交差点を発進右折し、本件交差点手前三、四〇メートルの地点で、四条通り方向でなく六条通り方向へ向かうことを示すために右折の合図を出したが、その後前記のように被告車に衝突したこと、網走駅方向から本件交差点に進入するについては一時停止の指定はないこと、原告車は、本件交差点手前三、四〇メートル位の所で右折の合図を出した当時、道路左端を走行し、速度は四〇キロメートル毎時まで出ていなかつたこと、原告はその際普通に前方を注視していたことを覚えているほか、右右折の合図を出してからのことは、その日の晩、収容された病院で意識を回復するまでの間の記憶を失なつていることの事実が認められ、以上の認定を覆すに足る証拠は存しないところであるが、原告が本件交差点の三、四〇メートル手前で右折の合図を出してから被告車と衝突するまでの間、原告車がどの位の速度で道路のどのあたり(右合図の地点までは左端を走つてきているが、衝突地点は道路のほぼ中央付近になつている。)を走行したのか、四条通り方向から来る被告車を認識していたのかどうか、同車が左折合図を出していることを認識していたのかどうかといつた点についての証拠は全く存しない。従つて、本件事故について原告に過失があつたのかどうか、仮にあつたとしてどのような過失があつたのかについてはいくつかの推測が可能としても、これを確定するには証拠は不充分であると言わなければならない。これに対し被告の方は、本件交差点に入る手前で一時停止をし、左折の合図を出して徐行で同交差点に進入したが、天都山方向へ行くため同交差点を出るか出ないかのうちに右折する態勢に入らねばならず、現に衝突時点では被告車は既に右折の態勢に入つていたものであるが、その右折のため左方の六条通り方向からの車の有無にのみ気をとられ、網走駅方向から六条通り方向へ直進(やや右カーブになつているが)してくる車がないかどうかを確認しなければならないにもかかわらず、全くこれをしていないのであるからこの点で被告に過失があることは明白である。

三  原本の存在とその成立につき争いのない甲第一号証、成立に争いのない甲第四ないし六号証、証人弭間四郎、同堀サヨ子の各証言及び原被告の各本人尋問の結果を総合すれば、請求原因2の事実及び4のうち(一)の治療費として金四二万五〇二〇円の支払いの請求を入院加療をした病院より受けており、同額の損害を受けた事実、及び原告は、本件事故によつて一〇日間の入院治療を受け、そのうち七日間は付添看護を要するとの医師の診断を受けている事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。右事実によれば入院諸雑費合計五〇〇〇円(一日五〇〇円、一〇日間)、付添看護料合計一万七五〇〇円(一日二五〇〇円、七日間)の損害も生じているものと認めるのが相当である。また本件事故の態様、原告の受けた傷害の部位、程度等考慮すれば、その精神的損害の慰藉料としては金一五万円を認めるのが相当である。

四  以上の事実によれば、原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく、本件事故の損害賠償金として車両運行供用者たる被告に対し、金五九万七五〇〇円とこれに対する昭和五二年九月七日から完済まで年五分の割合による金員の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当であるのでこれを棄却し、訴訟費用につき民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 菊池光紘)

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